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東京地方裁判所 昭和53年(ヨ)2328号 決定 1979年4月09日

申請人 中島隆成

右代理人弁護士 久保田昭夫

同 島田修一

同 有正二朗

同 須黒延佳

同 鴨田哲郎

被申請人 内宮運輸機工株式会社

右代表者代表取締役 内宮繁

右代理人弁護士 大崎巖男

同 五藤昭雄

同 石岡忠治

同 森明吉

主文

一  申請人が被申請人に対し雇用契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める。

二  被申請人は、申請人に対し、金三三、〇一七円および昭和五三年一〇月一日から本案判決言渡しに至るまで、毎月末日限り月額二一七、六八〇円の割合による金員を仮に支払え。

三  申請人のその余の申請を却下する。

四  申請費用は、被申請人の負担とする。

理由

第一当事者双方の求めた裁判

一  申請人

1  申請人が被申請人に対し、被申請人の本社の総務部総務課総務係長の地位にあることを仮に定める。

2  被申請人は、申請人に対し、昭和五三年九月一日以降毎月末日限り金二一七、六八〇円を仮に支払え。

3  申請費用は被申請人の負担とする。

二  被申請人

1  申請人の申立をいずれも却下する。

2  申請費用は申請人の負担とする。

第二当事者間に争いのない事実および当事者双方の主張の要旨

一  次の事実は当事者間に争いがない。

1  被申請会社は、一般区域貨物自動車運送事業、機械荷役解体据付事業、各種トラック・クレーン賃貸事業などを目的とする資本金三、〇〇〇万円の株式会社であり、従業員数は事務職員が約四五名、現業職員が約一五五名となっている。

申請人は、昭和四五年二月二三日被申請会社に雇用され、昭和五一年四月一日以降本社総務部総務課総務係長の職にある。

2  申請人は、全日本運輸一般労働組合東京地方本部東部地域支部内宮運輸機工分会(以下「分会」という)。の書記長であり、右分会は、昭和五三年二月二三日被申請会社に対し分会結成を通告した。

3  被申請会社は、昭和五三年七月一二日申請人に対し、口頭で同月一五日付をもって総務部総務課から営業部営業第一課へ配置転換を命ずる旨の意思表示をしたが(以下「第一次配転命令」という。)、同年八月七日申請人に対する第一次配転命令を撤回し、同日付で総務部安全課事故防止係長の職に配置転換を命ずる旨の意思表示をした(以下「第二次配転命令」という。)。

4  被申請会社は、昭和五三年八月一六日申請人に対し、申請人が第一次および第二次各配転命令を拒否し指示された業務に就労せず業務命令に反抗し続けた所為が就業規則二六条一号、二号、三号にそれぞれ該当することを理由に通常解雇する旨の意思表示をした。

5  被申請会社には、職務異動および本件解雇に関係する就業規則として別紙記載のとおりの各規定が存する。

二  当事者双方の主張の要旨

1  申請人

(一) 本件における第一次、第二次の各配転命令は申請人の組合活動を不可能にして分会を潰滅させることを意図した不当労働行為であり、その拒否を理由とする本件解雇も不当労働行為であって、いずれも無効である。

(二) 申請人の職種は経理事務であり、本件各配転命令は労働契約に違反するから、これを前提とする本件解雇も無効である。

(三) 本件各配転には業務上の必要性がなく、申請人が配転されれば組合活動に著しい影響が生じるため、申請人にはこれを拒否する特別の理由があるということができ、結局本件各配転命令は就業規則一九条に違反して無効であり、また、申請人には他に解雇される理由もないから、本件解雇は就業規則二六条に違反し無効である。

(四) 第二次配転命令は突然強行されたものであり、労使間における誠実な交渉義務を尽したものとはいえないから、第二次配転命令および配転拒否を理由とする本件解雇は、権利濫用、信義則違反であり、いずれも無効である。また、申請人は第二次配転命令を拒否していないのであるから、本件解雇はこの点からも無効である。

2  被申請人

本件各配転命令はいずれも業務上の必要性に基づく正当なものであって、労働契約、就業規則に違反するものではない。また、何ら分会攻撃を意図したものでもなく不当労働行為にあたらないことはいうまでもないから、これらを拒否した申請人の所為は就業規則二六条一号、二号、三号に該当し、本件解雇は有効である。

第三当裁判所の判断

一  疎明資料および審尋の全趣旨を総合すれば、次の事実が一応認められる。右認定に反する疎明は採用しない。

1  申請人は、被申請会社の事務職員として雇用され、直ちに総務部経理課に勤務し、昭和四七年七月総務部総務課に配置換えとなり、昭和五一年四月一日以降総務課総務係長の職にある。総務課においては、昭和五〇年五月以降昭和五三年七月三一日まで総務課長は任命されておらず、総務課の構成は係長たる申請人のほか事務職員二名、警務職員二名、役員車運転手一名、賄婦二名、雑役二名となっているため、申請人は同課の唯一人の係長として同課の事実上の責任者となっていた。

総務課は、人事、労務、庶務、従業員教育、賃金台帳の作成保管、購買、施設および資産管理、福利厚生、文書および社内報の編集出版、社内諸規程の作成および改廃、各種社会保険の手続、そのほか他の部または課に属しないすべての事項についてその事務を管掌している。従って申請人の所管事務の中には一般従業員の任免、賃金、人事あるいは労働組合との団体交渉のための資料収集、文書起案等に関連する事務が含まれることになり、また、所管事務の性質上機密事項も含まれるため、被申請会社は、申請人が分会書記長に就任した旨の通告を受けた後は、申請人の事務の一部を総務部長や次長など他の者が処理するなどして申請人に対し種々の配慮をせざるを得なくなり、総務課の業務執行が次第に円滑を欠き、遅滞混乱が生じるようになった。

2  分会は結成直後の同年三月四日以降労働条件の改善等を議題に被申請会社と団体交渉を重ねたが、分会と被申請会社との間には分会結成直後から多くの紛争が発生し、分会はその上部団体を申立人として、昭和五三年六月一日東京都地方労働委員会(以下「都労委」という。)へ被申請会社の分会員に対する残業規制、残業差別、上部団体および分会に対する誹謗中傷等を理由に不当労働行為の救済申立を行なった。なお、本件第一次、第二次の各配転命令当時分会と被申請会社との間ではいわゆる春闘による賃金増額等の交渉が継続中であった。

分会結成時における分会員数は約一八〇名であるが、分会長等の三役のうち書記長である申請人以外は現業職員であり、執行委員も二〇名のうち一五名が現業職員であるところ、現業職員は就業時間が区々であって勤務状況から分会活動を行なうことが困難であることもあり、各種会議の招集、組合ニュースの発行、団体交渉の関係書類の作成、都労委係属事件の資料整備等はほぼ定時に仕事が終了し外出も殆どない申請人がすべて処理していた。

なお、昭和五三年四月三〇日被申請会社従業員により分会とは別に内宮運輸機工労働組合が結成されている。

3  被申請会社は、総務課における業務執行状況等から申請人を更迭することが必要と考え、配転先を考慮した結果総務部内の財務課と安全課は現在の人員で十分であると判断し、営業部員の人員が減っていたため、その強化の目的で申請人に対し、昭和五三年七月一五日付で営業部営業第一課への第一次配転命令を行なった。

分会および申請人は、申請人が営業第一課に配属された場合その職務内容が得意先廻りであるため勤務時間が不規則となって組合活動が不可能になると判断し、営業第一課への第一次配転命令は分会に打撃を与えることを目的とした不当労働行為であるとしてこれを拒否した。そして同月二八日前記都労委係属事件について救済内容を追加するとともに、申請人は、同月二九日東京地方裁判所に配転命令効力停止の仮処分申請をした。

4  被申請会社は、同年八月七日午後四時ごろ申請人に対し、第一次配転命令を撤回し、同日付で総務部安全課事故防止係長職への第二次配転命令を行なった。当時の安全課の構成は、課長心得一名、事務職員二名(いずれも分会員、うち一名は執行委員)であり、事故防止係長の職は従前もうけられたことはなかった。

安全課の業務は、事故防止と事故処理を主たる内容とする。このうち事故防止業務としては交通・労働安全思想の普及および指導を図るものであり、その具体策として安全教育運動の対策立案とその実施、研修会、講習会の企画と実施、現業職員指導のための作業現場への安全パトロールがあり、事故処理業務としては、発生した事故の対応措置として現場に臨み、救急措置の実施、事故原因の究明、示談折衝を行なうことなどがあげられる。安全課の就業時間は他の事務職員と同様、午前八時三〇分から午後五時までであり、就業形態は、週六日間のうちほぼ三日間が事務室における事務処理が中心であり、他の三日間が安全パトロールとなっている。右の安全パトロールには年間五回位の夜間等就業時間外のパトロール、年間二回位の遠距離の作業現場へのパトロールなどが含まれるが、原則として就業時間内に実施されるものであり、パトロール業務については毎週金曜日に安全課員全員で翌週の予定表を作成することになっている。なお、営業課等の要請により夜間作業に立会うことも随時行なわれている。事故処理業務は事故発生状況に左右され、被申請会社の最近における事故発生件数は年間一〇〇件余であるが、その多くは就業時間内に処理されている。なお、安全課の業務に関して被申請会社は、同年七月一八日、職場の安全衛生に関する事項を審議するための安全衛生委員会を設置し(毎月一回以上開催されることになっている)。その事務を安全課の所管事項としたほか、所轄労働基準監督署から事故多発会社の指定を受けていたこともあって安全についての各種文書の配布等安全教育の徹底をはかることを会社の方針としていた。

申請人は、衛生管理者の資格を有していたうえ、総務係長として新入社員の安全教育を担当し安全衛生関係の法令に関する知識も有していた。総務課と安全課は被申請会社社屋内の同一の部屋におかれている。

5  申請人および分会は、従前から予定されていた同月七日夜の団体交渉において被申請会社に対し第二次配転命令の理由の説明を求めるとともに配転命令が突然であるとして諾否を検討するための時間的余裕を要求し回答を留保した。被申請会社はこれに対し、安全課への配転は会社の譲歩であるから是非承諾するよう強く求め、申請人および分会が事故防止係長という職がこれまで発令されたことがなかったため安全課において申請人がどのような事務を行なうかと質問したことに対し、安全課の業務内容は同課所属の分会員から聞くよう話したのみで特段の説明をしなかった。被申請会社は、翌八日申請人の机を安全課に移動させ、タイムカードを切り替えたため、分会はこれに抗議して腕章闘争に入った。なお、同月九日当庁において前記仮処分申請事件の審尋期日が開かれたが、申請人の安全課における業務内容、組合活動に対する配慮等につき被申請会社から説明はなされなかった。

分会は、同月一〇日上部団体の関係者をも交えて第二次配転命令について対策会議を開き、右会議において安全課の配転の真の狙いが分会をつぶすことにあるとの結論を出したが、組織防衛の観点から総務課総務係長の職には固執せず、総務課主任への降格あるいは申請人の組合活動に支障がない範囲で安全課への配転に応じる旨の方針をたてた。

申請人および分会と被申請会社は同月一五日第二次配転命令の諾否等を中心議題として団体交渉を行なったが、右団体交渉には従前出席していた代表取締役、専務取締役は、出席しなかった。申請人および分会は、総務課長が就任したから書記長として不都合な事務は課長が処理することにより申請人は総務課に在籍できないか、安全課は外勤が多くて不規則な勤務になるが組合活動のために勤務時間等の面で一定の配慮ができるかどうかを問い質したが、被申請会社は安全課に再配転したことが組合活動への配慮である旨答えるにとどまった。そこで、申請人および分会は、安全課への配転を全面的に拒否するのではなく引続き話合いの条件を双方で検討していきたい旨希望を述べて話合いの続行を要求し、被申請会社はこの点につき拒否する旨の返答をしなかったため、申請人および分会は話合いが今後も続行されることを被申請会社は了解したものと理解していた。なお、右団体交渉の席上分会側から話合いを続けていて解雇に発展することがあるのかと質問したことに対し、被申請会社は、いまの時点では解雇は考えていない旨答えた。

6  被申請会社は、翌一六日午後四時ごろ申請人を企画室に呼び出し安全課への配転辞令を交付しようとしたが、申請人は、盆休みで執行委員が急に集まらず執行委員会が開けないので自分一存では受け取ることができないことを説明して受領を拒否したところ、直ちに解雇通知書を示して解雇する旨の意思表示をした。なお、申請人は第二次配転命令後安全課で就労せず、総務課に出勤していた。

二  第二次配転命令の効力

そこで、まず第二次配転命令の効力について申請人の主張に即して検討していくことにする。

1  労働契約違反の主張について

前記一1認定のとおり、申請人は事務職員として雇用され、第二次配転命令に至るまで事務職員として勤務してきたものであるところ、第二次配転命令は勤務地の変更を伴うものではなく、その配転先である総務部安全課は総務部総務課と同じ事務部門に属するから、被申請会社が就業規則一九条により申請人に対し第二次配転を命じたことが申請人と被申請会社間の労働契約に違反するものとは認め難い。

2  就業規則一九条違反の主張について

前記一1認定のとおり、申請人は人事、労務等を所管事項とする総務課の事実上の責任者であったものであり、職務の性質および職務遂行上、人事、労務等に関し機密にわたる事項をも扱うことが予定されている以上その職責が分会書記長としての誠意と責任とに直接抵触する場合の生ずることは否定し難く、また、分会と被申請会社間の労使紛争が激化し、あるいは団体交渉が頻繁に行なわれるようになれば、右の二つの立場の抵触する場合の多くなることは容易に予想されるところである。前記一2認定のとおり、被申請会社には昭和五三年四月以降分会とは別の労働組合も存在しており、被申請会社が総務課の業務運営にあたり、申請人に対し分会書記長としての立場を考慮して種々の配慮をしたことは当然といえる。その結果前記一1認定のとおり総務課の業務が次第に遅滞、混乱するようになったのであるが、これが被申請会社の直接責に帰すべきものでない以上、業務の遅滞、混乱を解消するために被申請会社が申請人を更迭する必要があると判断したことは首肯しうるところである。ところで、昭和五三年八月一日、空席であった総務課長が新しく任命されたが、前記一1認定の総務課の業務内容、課員の構成に照せば、このことにより申請人の総務係長としての職責と分会書記長としての責務との抵触が解消するものとはいい難い。

ところで第二次配転命令における配転先の総務部安全課は第一次配転命令の際には人員を補充する必要がないとされていた課であるが、前記一4認定のとおり、第一次配転命令直後の同年七月一八日安全衛生委員会が設置されてその事務が安全課の所管とされ、また、被申請会社は事故の多発を防ぐため安全教育の徹底を方針とし事務量の増加が予想されていたものであるから、総務課からの更迭の必要性および安全課における右の事情を総合考慮すると、申請人を総務部総務課から同部安全課に配転したことについては業務上の必要性が存したものと認めるのが相当である。そして前記一4認定のとおり、申請人は安全衛生関係の法令知識もあり、安全教育の経験も有するから、申請人は安全課の係長として適格であったということができ、第二次配転命令に合理性がないとはいえない。してみると第二次配転命令は就業規則一九条前段の定める職務異動の要件に違反しているものとはいい難い。

ところで、就業規則一九条後段は、特別の理由の存する場合、従業員は、職務異動を拒否しうる旨定めていると解されるので検討する。前記一2認定のとおり、申請人は分会の書記長として分会事務をほとんど一人で処理しており多忙であったが、総務課の業務は規則的でほぼ定時に終了するためその後の時間を組合活動にあてることにより組合活動をするにつき特段の支障のなかったこと、第二次配転命令当時分会は被申請会社と労使紛争を持ち、また、いわゆる春闘交渉が継続中であったことが明らかである。そして前記一4認定事実によれば、総務課における勤務に比較し安全課の勤務には作業現場への安全パトロール、夜間作業立会い、事故処理業務等の外勤があり、勤務時間も不規則になることがあるため、第二次配転命令により申請人が従前行なっていた組合活動に制約の生ずることは否定し難い(なお、第二次配転命令により申請人は事故防止係長職に配転されることになるが、前記一5認定のとおり、被申請会社は申請人の安全課における業務が事故防止業務に限られるとの明確な説明はしておらず、実際にも安全課は少人数の課であり申請人は安全課の唯一人の係長になるから、少くとも被申請会社の明示の約束のない以上申請人の職務が事故防止業務のみに限られるものとは認め難い。)。しかしながら、申請人の組合活動上こうむる不利益については、前記一4認定のとおり、安全課における一週間の勤務のうちほぼ三日間は事務室内における事務処理が中心であり、安全パトロールも原則として就業時間内に行なわれることになっているうえ、事前に実施予定表を作成することにより業務を相当計画的に行ないうるものであり、また、事故処理業務は事故発生件数、事故発生時間、場所、態様等に左右されかなり不確実な要素をもつが、前記一4認定のところよりすればその相当部分は就業時間内に処理されていることが明らかである。従って右の事実からすれば、総務課勤務に比較し申請人の書記長としての組合活動に不便ないし制約が伴うもののこれが不可能あるいは著しく困難になるとはいい難い(右の制約の多くは他の分会員の協力により解決しうるものと考えられる。)。

既に説明したとおり、第二次配転命令には業務上の必要性がないとはいえず、配転における業務上の必要性の多くは総務係長たる申請人が分会書記長であるため被申請会社が業務運営上種々の配慮をし、この結果業務が次第に混乱、遅滞したことに基因するということができ、また、組合活動上こうむる不利益の程度は右にみたとおりであって、第二次配転命令によって分会が潰滅的打撃を受けるとはとうていいえず、結局本件において申請人の組合活動上の不利益、分会と被申請会社とが紛争状態にあること等は就業規則上配転を拒否する特別の理由に該当するものとはいい難い。

3  不当労働行為および信義則違反の主張について

第二次配転命令により申請人のうける組合活動上の不利益およびその程度、分会と被申請会社とが分会結成以来多くの労使紛争をもっており、第二次配転命令時いわゆる春闘交渉が継続中であったことは既に認定したとおりである。しかしながら、第二次配転命令において業務上の必要性がないとはいえないことは既に説明したとおりであり、第二次配転命令における業務上の必要性の多くは、先に述べたとおり、申請人が分会書記長に就任したため、被申請会社が総務課の業務運営上種々の配慮をせざるを得なくなり、その結果次第に総務課における業務執行に遅滞、混乱が生じるようになったことに基因するということができるのである。そして、第二次配転命令は営業部営業第一課への第一次配転命令を撤回したうえでなされたものであるが、疎明資料および審尋の全趣旨によれば、営業第一課の業務内容は得意先廻りであって事務室内で事務をとることがなく、終業時間も不規則になるため、申請人は、組合活動が不可能になるうえ営業実務に関係したこともないとして配転を拒否し都労委および裁判所に第一次配転命令の効力を争って救済を求めたこと、被申請会社は、申請人、分会の主張および都労委、裁判所における審査、審理等の経過を一応考慮し、営業第一課よりも安全課に配転するほうが申請人の組合活動に与える影響は少ないと独自に判断し(もっともこの点につき申請人、分会に十分な説明をしなかったことは後に述べるとおりである。)、また、前記のとおり安全衛生委員会の設置等により安全課における事務量が増加することもあって、第一次配転命令を撤回し第二次配転命令を出したことが一応認められる。右のとおり、第二次配転命令における業務上の必要性に加え、第二次配転命令のなされた経緯をも考慮すれば、第二次配転命令は、申請人が分会の中心的存在として熱心な組合活動をしていることを決定的理由とし、ひいては分会に潰滅的打撃を与えることを意図してなされたものとはいまだ認め難い。

次に、前記一4認定のとおり、第二次配転命令は、申請人に対し内示あるいは事前に意向を打診することなくなされたものであるが、前記認定の被申請会社が第二次配転命令をするに至った経緯や前記一5認定のとおり、第二次配転命令に関し被申請会社と申請人、分会との間で一応団体交渉が行なわれていることをも考慮すれば、第二次配転命令そのものを無効にするほどの信義則違反、人事権の濫用があったものとはいい難い。

4  以上のところからすれば、申請人に対する第二次配転命令が無効なものとはいえない。

三  本件解雇の効力

本件解雇は、申請人が第一次および第二次の各配転命令を拒否した所為が就業規則二六条一号、二号、三号に該当することを理由とするものであるので、次に、申請人に解雇されるべき事由があるか否か検討する。

既に説明したとおり第二次配転命令は申請人に対する内示ないしは事前の意向の打診なしに突然になされたものであるから、前記一5認定のとおり、申請人および分会が第二次配転命令のなされた八月七日夜の団体交渉において諾否の返答を留保し、検討のための時間的余裕を要求したことは当然といえる。そして、前記一5認定のとおり、申請人および分会は、同月一〇日第二次配転命令に対し総務課主任への降格あるいは申請人が組合活動をすることについて勤務時間等の面での保障があれば安全課への配転に応じる旨の方針をたて、同月一五日の団体交渉において安全課における申請人の業務内容、組合活動に対する配慮の有無等を質問し、安全課への配転を全面的に拒否するのではなく話合いの条件を双方で更に検討して行くことを希望したものである。疎明資料によれば、被申請会社は、第一次配転命令にあたり、申請人および分会に対し、安全課には人員を補充する必要がないこと、営業第一課においては申請人の組合活動について一定の配慮をする旨説明していたことが一応認められるから、申請人および分会が前記のような態度をとり、さらに被申請会社に対し交渉の続行を要求したことは不当とはいえず、また申請人および分会の前記態度が第二次配転命令を全面的に拒否したものと評価し難いことはいうまでもないところである。ところが、被申請会社は、前記一5認定のとおり、同月七日および一五日の団体交渉において申請人および分会の質問に対し必ずしも十分な説明をせず、同月八日には申請人の机を安全課に移動させて配転命令の実施を強行しようとし、同月一五日の団体交渉では話合いの続行を拒否せず、また、直ちに解雇するつもりはない旨答えたにもかかわらず、翌一六日に突然申請人に配転辞令書を交付しようとし、申請人が自分一存では受け取れない旨答えると申請人が配転命令を拒否したことを理由に解雇する旨の意思表示をしたものである。申請人は話合いが続行されるものと考えていたのであるから、配転辞令書を分会役員との協議なしに受け取れないといったことは当然であり、これを第二次配転命令を拒否したものとすることはできず、また、疎明資料および審尋の全趣旨によるも、申請人が直ちに安全課に移らなければ業務運営上著しい支障をきたす緊急の事情は見出し難い。そして右に検討した本件の事実関係に即して考えれば、被申請会社は、配転命令後といえども、申請人および分会の質問に対し、第二次配転の理由、申請人が事故防止係長として安全課においてどのような業務を行なうのか、組合活動に対する配慮について考慮の余地は全くないのか否か等につき十分な説明をして納得のえられるようにするとともに、申請人に対し最終的な諾否の回答を考慮させるためなお交渉を続行すべきであったといわざるを得ない。

本件解雇は、申請人が第二次配転命令を拒否し、本件解雇に至るまでの九日間安全課における就労を拒否した所為が就業規則二六条一号、二号、三号に該当することを主たる理由としており、前記一6認定のとおり、申請人は右の期間安全課に就労しなかったことは明らかである。しかしながら既に説明したとおり、申請人は、第二次配転命令を全面的に拒否したものとはいい難いうえ、右の期間配転の諾否に関し被申請会社と交渉を続け(この交渉の続行が不当なものといえないことは先に述べたとおりである。)、また、この間引続き総務課に出勤していたものであるから(本件全疎明によるも被申請会社が総務課への出勤を欠勤として扱っていたことは窺われない。)申請人の所為がただちに就業規則二六条一号、二号、三号に該当するものとはいい難い。仮にそうでないとしても、既に説明したとおり、本件の事実関係のもとでは、被申請会社は、第二次配転命令につき十分な説明をして納得のえられるようにするとともに最終的な諾否の回答を考慮させるため交渉を続行すべきであったから、本件解雇につき第二次配転命令拒否、安全課不就労を理由としたことについては労使間の信義則に反し許されないものといわざるを得ない。次に、本件解雇は、第一次配転命令を拒否したことをも理由としているが、第一次配転命令は被申請会社が任意に撤回したものであり、第一次配転命令が発せられて撤回されるまでの二〇日余りの間申請人が営業第一課で就労しなかったことにより業務に著しい支障を与えたとの疎明もないから(疎明資料および審尋の全趣旨によれば申請人はこの間総務課に出勤していたことが一応認められ、これが欠勤として扱われていたことを窺わせる疎明はない。)、仮に第一次配転命令が有効としても、このことのみをもって申請人の所為が就業規則二六条一号、二号、三号に該当し、解雇を相当とするとまでは認め難い。

疎明資料および審尋の全趣旨によれば、申請人の勤務態度は良好であり、他に解雇を相当とすべき事由もないから、右に説明したところから明らかなとおり本件において申請人を解雇することは解雇権の濫用といわざるを得ず、被申請会社のなした本件解雇の意思表示は無効であり、申請人は被申請会社の従業員たる地位を失っていないことになる。以上のところからすれば、申請人の「総務部総務課総務係長の地位にあることを仮に定める」旨の申請は被申請会社の従業員たる地位を仮に定める限度で理由があるが、その余は前記二で説明したとおり第二次配転命令が無効でない以上理由がないことになる。

四  賃金

疎明資料および審尋の全趣旨によれば、申請人は毎月二一日から翌月二〇日までの期間に対応する賃金を同月末日限り受領していること、申請人の本件解雇前三か月間の平均賃金月額は、少くとも二一七、六八〇円であることが一応認められる(因に、解雇直前の七月分賃金額は二三七、一五〇円となっている。)。

ところで疎明資料によると申請人は未払賃金、解雇予告手当、退職金等として被申請会社が東京法務局に供託した八四七、五四三円のうちから昭和五三年九月五日に同年八月分賃金として二一七、六八〇円、同年一〇月四日に同年九月分賃金として金一八四、六六三円受領していることが一応認められるから、申請人は九月分賃金差額三三、〇一七円および昭和五三年一〇月一日以降毎月末日を支払日として月額二一七、六八〇円の賃金請求権を有する。

五  保全の必要性

疎明資料および審尋の全趣旨によれば、申請人は、被申請会社の従業員として支払を受ける賃金を唯一の収入源として妻と子供二人を扶養している者であり、被申請会社からその従業員として取扱われず、本案判決言渡しに至るまで賃金の支払を受けられないでは生活に困窮し著しい損害をこうむることが一応認められるから、右の限度で保全の必要性があるというべきである。

六  結論

そうすると、申請人の本件申請は右にそれぞれ説明した限度で理由があるから、申請人に保証を立てさせないでこれを認容し、その余の申請については理由がなく、また、保証を立てさせることによってこれを認容することも相当でないからいずれも却下することとし、申請費用の負担については、民事訴訟法八九条、九二条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 吉本徹也)

<以下省略>

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